補助金申請に必要な事業計画書の書き方|基本構成・作成の流れ・成功のコツ(テンプレ付き)
補助金申請において、事業計画書は採択されるかどうかを左右する最重要書類です。
銀行融資や社内向けの事業計画書とは異なり、補助金用では審査員から見て公的支援をすべきと感じられる内容であることが求められます。
この記事では、補助金の種類に依存しない共通の作成ポイントを押さえながら、補助金申請に対応できる事業計画書の構成・作成手順・注意点を詳しく解説します。最後にテンプレートも掲載しているので、これから初めて作る方にもおすすめです。
1. 補助金用事業計画書と一般用の違い
事業計画書は様々な目的で作成されますが、目的によって書き方、特に強調すべきポイントが変わります。
目的 | 重視されるポイント |
---|---|
銀行融資用 | 返済能力、収益性、安全性 |
社内用 | ビジョン共有、行動計画の明確化 |
補助金申請用 | 公的目的との一致、事業の新規性・社会性、経済波及効果、実現可能性 |
補助金の場合は、「公的資金を投入する価値があるか」を第三者に納得させることが必須です。そのため、社会性や持続性の記述が欠かせません。
2. 補助金の有無に関わらず抑えるべき事業計画書の基本要素
事業計画書は、どのような目的で作成するにしろ、経営の「地図」としての機能も持ちます。その機能の達成のため、補助金申請用か否かを問わず、以下の項目は必須といえるでしょう。
- 事業の目的と背景
何のために事業を行うのか、そのきっかけや課題意識を明記。 - 事業内容
商品・サービスの詳細、提供方法、強みや差別化ポイント。 - 市場分析
顧客ターゲット、ニーズ、市場規模、競合環境。 - マーケティング・販売戦略
集客方法、販売チャネル、価格設定の考え方。 - 実施体制
経営者やチームのプロフィール、役割分担、外部パートナー。 - 数値計画
売上・利益予測、投資額、資金繰り。 - リスクと対応策
想定されるリスクとその対策。 - 将来展望
中長期的な目標や事業の発展計画。
これらは、どの目的の事業計画書にも共通する骨組みです。
3. 補助金用ならではの追加ポイント
補助金申請を事業計画書の目的に据える場合、上記に加えて申請したい補助金の審査項目に合わせた記載が求められます。申請したい補助金の公募要領をよくご確認ください。
いずれの補助金も何らかの形で以下の要素を盛り込むことが必要となるでしょう。
- 補助金の目的と事業の合致
補助金の目的と自社事業の関連を明示。 - 社会的効果・波及効果
雇用創出、地域活性化、環境改善など。 - 補助金の必要性
「補助金がなければ事業実施が困難な理由」を具体的に記載。 - 持続可能性
補助金終了後も事業が継続できる根拠。
4. 作るまでの流れ(初心者向け)
補助金申請用の事業計画書を効率よく作るための手順を整理します。
ステップ1:目的と対象制度を明確化
- どの補助金を狙うのか決定し、公募要領を読み込む。
- 補助金の目的や審査基準を抜き出してメモ。
なお、狙うべき補助金の探し方については以下の記事で解説しています。
ステップ2:情報収集と分析
- 自社の現状(財務・人員・設備・強み)を整理。
- 市場データ、競合情報、業界動向を調べる(商工会・統計局データ等活用)。
ステップ3:構成を決める
- 必須項目と補助金特有の項目を組み合わせたアウトラインを作成。
- 見出しに審査基準のキーワードを入れると効果的。
ステップ4:下書き作成
- まずは全体像を粗く書き出し、後で肉付け。
- 図表やグラフを挿入し、視覚的にわかりやすくする。
ステップ5:根拠と数字を入れる
- 売上予測や効果は必ず数字で。
- 根拠となるデータや試算方法を明示。
ステップ6:第三者チェック
- 読み手が審査員の立場で理解できるか確認。
- 商工会や認定支援機関、専門家にレビューを依頼。
ステップ7:最終調整
- 誤字脱字の修正、要件漏れがないか確認。
- 提出形式(PDF化や様式順守)をチェック。
5. よくある失敗と回避策
抽象的すぎる計画
→ 数字・固有名詞・事例で具体化する。
補助金ありきの計画
→ 補助金がなくても意義がある事業であることを示す。
要件漏れ
→ 公募要領を横に置き、1項目ずつ反映チェック。
文章だけで読みづらい
→ 図表・箇条書きで視覚的に整理。
6. 汎用テンプレート(補助金申請対応版)と記入例
補助金申請目的のテンプレートです。申請する補助金の要件によって多少のカスタマイズは必要になります。
また、仮想事例についての記入例も載せておきます。あくまでポイントのみですが、どの程度の解像度が求められているかの参考にしてください。
テンプレート
- 事業計画名(30字以内+概要)
- 事業の目的と背景
- 事業内容の詳細
- 市場・競合分析
- マーケティング・販売戦略
- 実施体制とスケジュール
- 数値計画(売上・利益・投資額・資金繰り)
- 社会性・公共性(補助金用の場合必須)
- 補助金の必要性と活用後の持続性
- リスクと対応策
- 将来展望
記入例
事例①:ITサービス業(SaaS型在庫管理システム)
- 事業計画名(30字以内+概要)
「中小物流業向けクラウド在庫管理システム開発事業」
在庫管理のDX化を推進し、物流業の作業効率と誤出荷率低減を実現するクラウドサービスを開発・提供します。
- 事業の目的と背景
当社は10年にわたりWebアプリ開発を行ってきました。中小物流企業では依然として紙やExcelによる在庫管理が多く、誤出荷・欠品による損失が課題となっています。本事業では、IoT機器と連動したクラウド型在庫管理システムを開発し、導入企業の業務効率化とコスト削減を支援します。
- 事業内容の詳細
- IoTバーコードスキャナと連動するSaaS型在庫管理システム開発
- スマホ・タブレット対応UI/UX設計
- AIによる需要予測機能搭載
- 導入支援・運用サポート体制構築
- 市場・競合分析
- 国内物流業の市場規模は年間20兆円以上(国交省データ)
- 中小事業者ではIT導入率が低く、クラウド型の競合は大手数社のみ
- 当社は低価格・短納期・カスタマイズ対応を強みに差別化
- マーケティング・販売戦略
- 業界展示会でのデモ出展
- 商工会議所経由の会員企業への紹介
- 導入事例を活用したWebマーケティング
- 初期費用無料キャンペーンによる早期契約促進
- 実施体制とスケジュール
- 体制:プロジェクトマネージャー(代表取締役)、開発リーダー、営業担当、サポート担当
- スケジュール
2025年4月〜6月:要件定義・試作開発
2025年7月〜10月:β版開発・テスト
2025年11月:サービス正式リリース
- 数値計画
- 開発・導入費用:3,000万円(補助金申請額:1,500万円)
- 初年度導入企業数:50社、売上4,000万円
- 3年後:200社導入、売上1.6億円
- 社会性・公共性
- 中小物流企業の作業効率を平均20%改善
- 誤出荷率50%削減(試験導入企業データより)
- 地域の雇用創出(サポート部門で3名採用)
- 補助金の必要性と持続性
- 補助金なしでは資金負担が重く、開発期間が延びる可能性
- サブスクモデルによる安定収益で長期運営が可能
- リスクと対応策
- 技術開発の遅延 → 外部パートナー活用
- 競合参入 → ニッチ領域特化とカスタマイズ強化
- 将来展望
- 海外市場(ASEAN地域)への展開
- 在庫管理から受発注管理まで拡張
事例②:製造業(金属加工業の新製品開発)
- 事業計画名(30字以内+概要)
「軽量高耐久アルミ合金製部品の新規開発事業」
次世代電動モビリティ向けに、軽量かつ高耐久のアルミ合金部品を新規開発し、国内外メーカーへ供給します。
- 事業の目的と背景
当社は創業30年の金属加工業で、自動車部品を中心に製造を行っています。EV化の進展に伴い、軽量化ニーズが急速に高まっており、新素材を活用した部品開発の需要が拡大しています。本事業では、新たなアルミ合金を用いた軽量高耐久部品を開発し、環境負荷低減に貢献します。
- 事業内容の詳細
- 新アルミ合金の試験加工・評価
- 金型設計・製造工程の最適化
- 耐久試験・安全性試験の実施
- 国内外のEVメーカー向け販路開拓
- 市場・競合分析
- EV市場は年率20%以上の成長見込み(経産省データ)
- 大手メーカーは軽量化開発に注力しているが、中小の柔軟性ある供給は不足
- 当社は小ロット対応と短納期を強みに参入可能
- マーケティング・販売戦略
- 業界展示会・商談会でのサンプル提供
- 既存取引先経由での新製品提案
- 海外代理店との提携による輸出
- 実施体制とスケジュール
- 体制:代表取締役(統括)、開発責任者、製造部長、品質管理担当
- スケジュール
2025年5月〜8月:素材試験・試作
2025年9月〜11月:金型製作・量産試験
2025年12月:量産開始
- 数値計画
- 設備投資額:5,000万円(補助金申請額:2,500万円)
- 初年度売上目標:3,000万円
- 3年後売上目標:1.2億円
- 社会性・公共性
- 部品軽量化によるCO₂排出削減(車両1台あたり約5%減)
- 地域雇用2名増加
- 地元高専との共同研究による技術者育成
- 補助金の必要性と持続性
- 高性能設備導入と試験費用の負担軽減に必要
- EV市場拡大に伴い継続的な受注が見込める
- リスクと対応策
- 素材調達遅延 → 複数サプライヤー確保
- 試験不合格 → 改良工程の確保
- 将来展望
- 海外メーカー向けOEM供給
- 航空機部品市場への参入
7. 自社作成の限界と専門家依頼のメリット
事業計画書は、作ることは手段であって目的ではありません。補助金申請用であれば、採択されなければ意味がなく、無駄な作業となってしまいかねません。
初めての場合や時間がない場合は、外部専門家を活用することで以下のメリットがあります。
- 審査基準を反映した文章構成
- 市場データ・統計の迅速な収集
- 採択実績に基づく加点要素の提案
- 要件漏れや書式不備の防止
外部専門家を活用することのメリットについては、以下の記事でも解説しています。
8. まとめ
事業計画書は経営の地図であり、補助金申請では採択の命運を握る書類です。
今回のポイントと流れを押さえれば、自社でも作成可能ですが、精度や採択率を上げたいなら専門家の力を借りるのが近道です。
当事務所では、ヒアリングから構成案作成、データ収集、最終仕上げまで一貫サポートしています。
初めての補助金申請でも安心してお任せください。