2025年度の最低賃金引上げと中小企業の賃上げ対策~経営負担を軽減する補助金・助成金活用ガイド~
はじめに:賃上げの時代、新たな局面へ
2025年度、全国加重平均の最低賃金は1,121円となり、引上げ額は過去最大の66円に達しました。
この急激な上昇は、政府の「構造的賃上げ」の方針を背景にしていますが、多くの中小企業にとっては大きな経営負担です。
2025年版「中小企業白書」によれば、2024年度の中小企業の賃上げ率は約4.45%と過去30年ぶりの高い水準に達しました。しかし、労働分配率はすでに8割近くに達しており、利益のほとんどが人件費に充てられています。
業績が伴わなくても人材確保のために賃上げを実施せざるを得ない企業が多く、その背景には深刻な人手不足があります。
経営者として、「無理をしてでも従業員の生活を守りたい」「人材を手放したくない」という想いと、限られた資金の中での葛藤を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、そんな現場の声に寄り添いながら、最低賃金引上げや賃上げ全般に対応するための実践的な対策と支援制度をご紹介します。
1. 賃上げに有効な経営改善策
最低賃金引上げへの対応だけでなく、持続的な賃上げを可能にするには、日常的な経営改善が不可欠です。
ここでは、最低賃金に限らず幅広く賃上げに効果がある経営改善策を3つご紹介します。
生産性向上投資
業務効率化や省力化によりコストを削減し、賃金原資を確保します。
例:POSレジ導入、在庫管理システム、自動化機器など。
→ 後述の 業務改善助成金、ものづくり補助金、省力化投資補助金 をとの組み合わせが効果的
販売力強化・価格転嫁
適正な価格設定と取引条件の見直しにより、売上と利益を確保します。
例:改正下請法や取引適正化法の活用、価格交渉力の強化。
→ 後述の 持続化補助金、価格転嫁支援策 との組み合わせが効果的
デジタル化
デジタル化によって付加価値を高め、労働時間を削減します。
例:クラウド会計、業務管理アプリ、AIによる受注・在庫予測。
→ 後述の IT導入補助金、省力化投資補助金、ものづくり補助金との組み合わせが効果的
補助金を活用したデジタル化について知りたい方はこちらへ
とはいえ、これらは「正しい方向性」ではあっても、すぐに実行できる企業ばかりではありません。
人員や資金に余裕がない中で、すべて自力で取り組むのは難しいのが現実です。
だからこそ、本記事では、現実的で効果的な賃上げ対策として、次にご紹介する「補助金・助成金などの公的支援制度」を上手に組み合わせることをおすすめします。
2. 【2025年度版】最低賃金引上げ・賃上げへの支援制度
ここで紹介する支援制度の多くは、最低賃金引上げに限らず、幅広い賃上げ施策にも活用できます。
その中で、「業務改善助成金」だけは最低賃金の引上げに特化した制度です。
最低賃金対応が急務の企業はまずこれを確認し、他制度と組み合わせて総合的に活用するのがおすすめです。
業務改善助成金(最低賃金引上げ向け)
- 前述の生産性向上投資とリンクします。
- 制度の目的:最低賃金引上げによる人件費負担増を緩和しつつ、生産性向上の取組を促進する。
- 助成内容:事業場内最低賃金を一定額引上げ、生産性向上に資する設備投資や人材育成にかかった費用の一部を助成。
- 改正ポイント(2025年9月5日~)
- 賃上げ計画書の事前提出が不要に
- 対象範囲を拡大(従来は「地域別最低賃金+50円以内」→現在は「地域別最低賃金未満」)
- 助成額の目安
- 60円引上げ・7人以上→上限230万円
- 90円引上げ・10人以上→上限600万円 など
- 活用例
- POSレジや自動釣銭機の導入
- 生産ラインの自動化機器導入
- 従業員の技能向上研修
- 誰に頼む?:申請は社会保険労務士(社労士)の独占業務。要件確認や計画書作成、申請書類作成を依頼可能。
キャリアアップ助成金
- 前述の生産性向上投資や人材定着とリンクします。
- 制度の目的:非正規雇用者の待遇改善と人材定着を支援。
- 助成内容:非正規社員の正社員化、または賃金規定改定(3%以上)を行った場合に助成金を支給。
- 主なコース
- 正社員化コース:1人あたり最大72万円(生産性要件を満たせば加算あり)
- 賃金規定等改定コース:対象者1人あたり最大6万円(生産性要件加算あり)
- 申請の流れ
- 計画書の提出(実施前)
- 対象者の転換・賃金改定
- 6か月間の賃金支払い後に申請
- 注意点:申請期限(実施後2か月以内)を過ぎると不可。
- 誰に頼む?:要件適合の確認から申請まで社労士が代行可能(独占業務)。
価格転嫁支援策
- 前述の販売力強化・価格転嫁とリンクします。
- 制度の目的:原材料費や人件費の上昇分を適切に販売価格・取引価格に反映させることで、中小企業の収益確保を支援。
- 主な施策
- 価格交渉促進:取引先との交渉を後押し
- 下請法運用強化:不適切な取引慣行の是正
- 価格交渉サポートツール提供(原価計算シート、文例集)
- フォローアップ調査による業界全体の改善
- 活用例
- 最低賃金引上げに伴う人件費増加分を価格に反映する交渉の資料作成
- 下請取引での適正価格設定
- 関連リンク:中小企業庁「価格交渉・転嫁の支援ツール」
各種の補助金
各種の補助金も最低賃金引上げ・賃上げに活用可能です。
各制度については当ブログや補助金申請支援ガイドにてご紹介しておりますので、本記事ではごく簡単な概要紹介に留めます。
- ものづくり補助金(生産性向上投資・デジタル化とリンク):付加価値向上のための設備投資を補助、賃上げ企業に加点。
- 省力化投資補助金(生産性向上投資・デジタル化とリンク):省人化・自動化機器導入を補助。一般型とカタログ注文型があります。
- IT導入補助金(デジタル化とリンク):業務効率化や売上向上につながるITツール導入を補助。
- 小規模事業者持続化補助金(販売力強化・価格転嫁とリンク):販路開拓・販売促進活動を補助、賃上げ企業に加点。
主要な補助金についてもっと知りたい方はこちら(制度毎の詳細ガイドもございます)↓
3. 経営者へのおすすめアクション
- 自社に適した経営改善策を検討
- 現状の課題(人件費負担、売上、労働時間、業務効率など)を整理
- 「生産性向上投資」、「販売力強化・価格転嫁」、「DX導入」などの経営改善策の中から優先順位を決定
- 改善策に適した支援制度を選定
- 改善策に合う補助金・助成金を探し、要件や申請スケジュールを確認
- 複数制度の併用可否もチェック(例:業務改善助成金+省力化投資補助金)
- 社労士や中小企業診断士などの専門家に適宜相談
- 改善策を実施
- 交付決定・計画認定後などを経て改善策を実行
- 支援対象外とならないよう経費支出のタイミングに注意
- 実施後は、生産性向上や賃上げ効果を記録し、次回の申請や追加施策に活用
- 交付決定・計画認定後などを経て改善策を実行
おわりに
賃上げは未来への投資です。
公的な支援制度を理解し、経営改善策とリンクさせて活用することで、負担を軽減しつつ持続的な人材確保と成長を実現できます。
重要なのは、「何から始めるか」です。
まずは、自社に適した経営改善策を検討することから着手しましょう。
現状を整理し、取り組むべき方向性が見えれば、それに合った支援制度を選びとり、賢く活用する道筋が見えてきます。
一歩踏み出すことで、賃上げは「義務」から「成長戦略」へと変わります。
その第一歩を、今日から始めてみませんか。
自社に合った経営改善策や支援制度を選ぶには、制度の細かい条件やタイミングを把握することが重要です。
当事務所では、こうした検討をサポートする無料相談を行っています。
「とりあえず方向性だけでも確認したい」という方も、お気軽にご利用ください。