特許料・審査請求料が半額や1/3に?中小企業が必ず使うべき「減免制度」
特許を取ろうとすると、出願後の手続きや維持のために、思った以上にお金がかかります。しかも、ほとんどの場合、知財の補助金や助成金は地域によって制度があったりなかったりで、誰でも使えるわけではありません。そんな中、中小企業なら全国どこでも利用でき、特許取得にかかる費用を大きく減らせるのが「減免制度」です。特許の仕組みを詳しく知らなくても使える制度なので、まず知っておきたい基本としてわかりやすく紹介します。
減免制度とは?中小企業が使える特許庁手数料の「軽減措置」
中小企業や個人事業主が特許を取得しやすくするために、特許庁が用意しているのが「減免制度」です。
これは、審査請求料と特許料(1〜10年分)が “半額または3分の1” になる制度で、条件を満たせばほぼ確実に利用できます。
まず、費用の意味を簡単に整理すると、
- 審査請求料:
特許庁に「この発明を審査してほしい」と依頼するための費用。
これを支払わないと、出願しても審査されず、特許にはなりません。 - 特許料(年金):
特許が認められたあと、権利を維持するために毎年支払う費用。
これらの費用は本来かなり高額ですが、減免制度を使うと大幅に軽減されます。
対象は中小企業・小規模事業者・個人事業主・大学などで、
「大企業以外はだいたい使える」 と考えて問題ありません。
手続きもシンプルで、
元々手続きに必要な書類に決まった記載を追加するだけ。
原則として中小企業であることを示す追加書類は不要で、チェック項目の追加程度で完了します。
なお、この制度は 特許のほか実用新案も対象となりますが、意匠や商標には減免制度はありません。
「特許は高いから…」とためらっていた企業でも、減免制度を活用すれば費用負担が一気に下がり、初めての知財取得に踏み出しやすくなります。
あなたの会社は「半額」?それとも「3分の1」?減免率の決まり方
減免制度では、審査請求料と特許料が 「半額」または「3分の1」 に軽減されます。どちらが適用されるかは、会社の規模や事業開始時期などによって決まります。ここでは、中小企業・小規模事業者・中小スタートアップ企業の3つに分けて整理します。
中小企業は「半額」
最も一般的に該当しやすいのがこの区分です。
- 資本金(または出資総額)が中小企業の基準以内
- 従業員数が中小企業の基準以内
- 大企業に支配されていないこと
これらを満たせば、審査請求料・特許料が「半額」 に軽減されます。
小規模事業者は「3分の1」
「中小企業」よりもさらに規模が小さい事業者(小規模事業者)は、減免率がより優遇されます。
- 製造業:従業員20人以下
- 卸売業:従業員10人以下
- 小売・サービス業:従業員5人以下
- 大企業に支配されていないこと
これらの要件に当てはまる場合、費用が「3分の1」 に軽減されます。
中小スタートアップ企業も「3分の1」
設立から間もない企業には、スタートアップ向けの特別枠があります。
法人の場合
- 設立後10年未満
- 資本金または出資総額が3億円以下
- 大企業に支配されていないこと
個人事業主の場合
- 事業開始後10年未満であること
この区分に該当すれば、審査請求料・特許料ともに「3分の1」 に軽減されます。
判定はそれほど難しくない
「自社がどの区分に入るのか難しそう」と感じるかもしれませんが、
多くの中小企業・小規模事業者・スタートアップ企業はいずれかに該当します。
軽減率は、「中小企業」よりも「小規模事業者」や「中小スタートアップ企業」の方が大きいので、重複該当する場合は後者を選択するほうがお得です。
減免制度でどれくらい安くなる?実際の金額で比較してみよう
ここでは、減免制度を使うと どれくらい費用が下がるのか を、実際の金額で分かりやすく比較します。
審査請求料はいくらになる?
審査請求料は、
基礎額+請求項数 × 加算額
で計算されます。
ここでは例として、請求項10の場合で試算します。
- 通常額:168,000円
- 半額:84,000円
- 3分の1:56,000円
最初の出費が大きく抑えられるため、これだけでも特許取得のハードルがかなり下がります。
特許料(1〜3年分)はどれくらい?
特許料は、特許が登録された後に毎年支払う「維持費」です。
年度が進むほど高くなるため、長期的に見るほど減免効果が大きくなります。
1〜3年目(毎年)
- 通常額:8,300円
- 半額:4,100円
- 3分の1:2,700円
この区間は3年間だけ続く部分で、金額は比較的小さめです。
4〜6年目(毎年)
- 通常額:16,600円
- 半額:8,300円
- 3分の1:5,500円
このあたりから年額が上がり、減免制度の実感が強くなります。
7〜10年目(毎年)
- 通常額:49,400円
- 半額:24,700円
- 3分の1:16,400円
後半の維持費は高額なので、軽減率による差が大きくなります。
10年間の総額を比較すると?
請求項10の場合、
審査請求料+特許料(1〜10年分)の総額は以下の通りです。
- 通常額:504,000円
- 半額:252,000円
- 3分の1:168,000円
つまり、
- 半額なら 約25万円の節約
- 3分の1なら 約34万円の節約
特に後半の特許料が重いので、トータルでは非常に大きな削減効果になります。
「特許は高い」というイメージが変わりませんか?
このように、軽減後の金額を見ると、中小企業・小規模事業者・スタートアップ企業は、コスト面でかなり優遇されていることがお分かり頂けると思います。
減免制度は、特許取得の初期費用と維持費の両方を大きく下げてくれるため、初めて知財に取り組む企業にとっても非常に使いやすい制度です。
減免制度は補助金・助成金と併用すると、費用負担をさらに抑えられる
減免制度はそれだけでも大きな費用軽減効果がありますが、補助金・助成金と併用すると、負担を“より一段と”抑えることができます。
中小企業向けには、自治体などが実施する知財関連の補助金・助成金制度が多数あり、弁理士費用・翻訳費・調査費などを支援するものが一般的です。
減免制度で「国への手数料」が軽減される
前章で解説したように、
- 審査請求料
- 特許料(1〜10年)
これらが 半額または3分の1 になるため、基礎的な費用負担が大幅に下がります。
補助金・助成金で「弁理士費用など」が別枠で軽減される
補助金・助成金の対象経費例:
- 弁理士費用(出願書類作成費)
- 外国出願の翻訳費用
- 調査費
- 登録費用
減免制度とは別の部分を補助してくれるため、併用すると費用の重複軽減が可能 です。
また、意匠や商標関連の経費など、減免制度ではカバーされない費用が軽減されることもあります。
ただし、どの経費が対象となるかは、自治体の制度設計によりけりです。
併用の効果:軽減の幅がさらに広がる
減免制度だけでも十分に大きな効果がありますが、補助金・助成金が利用できれば さらに総額が下がる ため、初めて特許を取る企業にとっては強い後押しになります。
補助金・助成金は「使いたいときに使える」とは限らない
補助金・助成金には、減免制度にはない弱点が存在します。
- 公募期間が短い
→ 手続きのタイミングと合わないことがある - 予算枠が限られている
→ 早期締切になる、採択枠が少ない - 地域限定
→ 事業所所在地によっては対象外 - 要件が自治体ごとにバラバラ
→ 使いやすい地域と使いにくい地域がある
つまり、
「使えれば大きいが、タイミングや地域によって利用できないことも多い」
というのが現実的な位置づけです。
各自治体の最新の補助金情報は、当サイトのまとめページで一覧化していますので、あわせてご確認ください。
減免制度は全国どこでも、いつでも使える
補助金に比べて、減免制度は次の点で安定しています。
- 全国どこでも利用可能
- 手続きのタイミングを選ばない
- 申請のハードルが低い
- 毎年の予算に左右されない
つまり、補助金・助成金が使えなくても、減免制度だけで確実に費用は下がるという“安心感”があります。
補助金・助成金は条件が合えば大きな支援になりますが、タイミングや地域の制約もあるため、まずは確実に使える減免制度を押さえておくことが重要です。
まとめ ― 減免制度は中小企業がまず確実に使うべき制度です
特許取得には一定の費用がかかりますが、中小企業・小規模事業者・スタートアップ企業であれば、減免制度を使うだけで審査請求料と特許料(1〜10年目)が半額または3分の1 になります。
補助金・助成金と併用できればさらに負担は下がりますが、補助金は地域限定であったり、公募期間が短かったり、予算枠が限られていたりと、使いたいときに使えるとは限らない制度です。
その点、減免制度は:
- 全国どこでも
- 年中いつでも
- 難しい手続きもなく
確実に使える、最も手堅い費用軽減策 といえます。
減免制度の使い方はとても簡単
実務では、出願を依頼する弁理士に「減免制度を使いたい」と伝えるだけ で完了します。
というより、気の利く弁理士なら、「減免の要件に該当しませんか?」と聞いてくると思いますが。
企業側が新たな書類を準備する必要はありませんが、弁理士から従業員数などの要件が確認されるので正確に回答しましょう。
減免を使ったからといって審査が不利になることもありません。
「うちは減免が使える?」
と一言相談するだけで、特許取得のハードルはぐっと下がります。
最後に
補助金・助成金は条件が合えば費用をさらに抑える強力な選択肢ですが、まずは 確実に使える減免制度 を押さえることが、知財活動の第一歩として非常に重要です。
本記事が、特許の取得を検討する企業の皆さまの費用負担を少しでも軽くする一助になれば幸いです。
