大企業・ハイテクじゃなくていい!ふつうの中小企業でも特許は狙える
特許と聞くと、どうしてもトヨタやソニーのような大企業、あるいはAIやバイオといった最先端のハイテク分野を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
「うちのような普通の中小企業には関係ない」と感じている経営者も少なくありません。
そのような潜在意識の現れかもしれませんが、統計を見れば、中小企業の特許出願は経済規模に比べて少ないことがわかります。
実際には、特許のハードルは思ったほど高くはなく、中小企業の身近な“ちょっとした工夫”や“改良”が特許となり、ビジネスの武器になっている事例も数多くあります。
本記事では、統計や事例を紹介しながら、「特許は大企業やハイテクだけのものではない」、「中小企業の知財活動はもっと伸びしろがある」ということをお伝えします。
読んでいただければ、自社の技術やアイデアの中に「特許のタネ」が眠っているかもしれない、と感じてもらえるはずです。
統計で見る中小企業の役割の大きさと特許出願状況とのギャップ
中小企業は、日本経済の中で非常に大きな役割を担っています。
たとえば、GDP(付加価値額)の約5割を中小企業が生み出し、雇用の約7割を支えているといわれます(中小企業庁「中小企業白書2025年版」)。
ところが、特許出願件数に占める中小企業の割合はそれほど高くありません。
特許庁の統計によれば、2024年の内国人による特許出願件数は約23.7万件、そのうち中小企業による出願は**約3.8万件(16.0%)にとどまっています(特許庁「特許行政年次報告書2025年版」)。
つまり、
- 経済全体の半分を支え、
- 雇用の約7割を担う存在でありながら、
- 特許出願におけるシェアは2割弱。
この数字からは、中小企業の経済的な存在感に比べると、特許出願の割合は相対的に小さいことが見えてきます。
背景には、費用や人材リソースの制約、あるいは「特許は自分たちには関係ない」という意識が影響している可能性もあります。
いずれにせよ、中小企業の知財活動にはまだ広がりの余地があると考えられるでしょう。
特許を取るメリット
では、そもそも中小企業が特許を取ることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
「手間や費用をかけてまで必要なのか?」と疑問に思う経営者の方もいるかもしれません。ここでは代表的な3つの利点を挙げます。
利点1. 模倣を防ぎ、独自性を守る
せっかく開発した技術や工夫も、自社の製品やサービスが世に広まると模倣されるリスクがあります。
特許という法的権利があれば、競合他社に対して「これはうちの技術だ」と明確に主張でき、いざとなれば法的措置を採ることで、独自性を守る手段となります。
利点2. 取引や交渉での信頼材料になる
「特許を持っている会社」という事実は、取引先や顧客にとって大きな安心材料です。
特に大企業や自治体との取引では、知財を持っていることが「きちんと技術を守っている会社」としての評価につながる場合があります。
利点3. 企業の資産として積み上がる
特許は無形資産として企業に残ります。
将来、ライセンス収入を得たり、事業売却やM&Aの際に評価額に反映されたりと、知財が「会社の価値そのもの」を高める可能性があります。
このように、特許には様々な利点があります。
そのうえ、特許を取ることのハードルは未経験の企業が感じるほど高くないのです。
もちろん、特許出願には費用や手間がかかりますし、出願公開によって技術の内容が外部に知られるリスクもあります。
したがって、特許が取れそうだからといってもなんでもかんでも出願するのではなく、費用対効果や事業戦略上の役割を考えたうえで、出すべき技術を選ぶことが重要です。
中小企業の事例紹介
特許は決して大企業や最先端分野だけのものではありません。
実際に、中小企業が自社の技術や工夫を特許化し、事業に活かしている事例が数多くあり、一部は事例集として公開されています。ここでは、その中から2つを紹介します。
事例1|株式会社ケーエスケー(愛知県)
消防用の「龍神ノズル」を自社開発し、特許(例えば、特許5575315)だけでなく意匠・商標と組み合わせて権利化しています。
改良点は、ノズルの噴射構造や操作性に関する工夫といった“部分的な改良”であり、全く新しいノズル技術体系そのものではありません。
事例集では、上市を見据えた開発→他社の知財調査→権利化という流れが紹介されています。
このような取り組みは、推測になりますが、製品の差別化や販売活動の面でもプラスに働いている可能性があります。
(出典:特許庁「知財活動事例集 ~中小企業の舞台裏 14事例~」)
事例2|ののじ株式会社(東京都)
調理器具や生活用品を手がけるののじは、形状や使い勝手の工夫を特許や意匠で保護(例えば、特許6503109)。
事例集では、日常的に使う道具の操作性向上や新機能追加といったアイデアが、実際に知財化されていることが紹介されています。
一見「ちょっと便利にしただけ」に思える工夫でも、ユーザー体験を高める技術的改良として特許になることを示す好例です。
なお、特許権の名義はグループ会社であるレーベン株式会社に帰属しており、ののじは開発・販売主体として活動しています。
このように、グループ内で知財を集約する形態を取ることで、権利管理と事業展開を両立している点も特徴です。
(出典:特許庁「Rights」)
事例から見えてくること
- ケーエスケー:機械装置の「構造改良」
- ののじ:生活用品における「形状・機能の改良」
このように、特許は必ずしも大発明ではなく、現場の工夫や利便性向上から十分に生まれることがわかります。
「意外と特許になる」要素5選
ここまでの事例に加え、実際の特許動向を見ると「意外とこれも特許になる」という例が少なくありません。整理すると、次の5つの要素にまとめられます。
1. 既存技術の改良・追加機構
(事例1:ケーエスケー「消防ノズル」)
製品の基本構造を丸ごと変えなくても、部品の形状・構造・操作性を改善する工夫で特許になる可能性があります。
現場で「使いやすくなった」「効率が上がった」と感じる改善は、特許になりやすい要素です。
2. 形状や使い勝手の工夫
(事例2:ののじ「調理器具」)
見た目やデザインに近い工夫でも、技術的な作用・効果(例:力が小さくて済む、作業が楽になる)があれば特許になる可能性があります。
生活用品や日用品といった分野でも十分にチャンスがあります。
3. 用途特化・産業応用
既存の技術でも、特定の用途に応用した工夫があれば特許になる可能性があります。
例:工業機械を食品加工用に転用する際の改良、医療用に調整した仕組みなど。
4. ビジネスプロセスやソフト処理手順
製品や装置だけでなく、業務の流れやサービス提供の仕組みも特許になる可能性があります。
例えば、物流管理システムの処理フローや決済システムの手順など、技術的要素を含む業務プロセスは保護されるケースがあります(いわゆる「ビジネスモデル特許」)。
5. 生活分野の意外な工夫
(事例2:ののじ「調理器具」)
包装方法や飲料容器の形状、椅子の構造など、一見ごくありふれた生活分野の技術でも特許は数多く存在します。
「ハイテクでないから無理」と思いがちな分野にこそ、特許のタネが眠っていることがあります。
まとめ
意外と特許になる要素は、
- 既存技術の改良
- 形状や使い勝手の工夫
- 用途特化・応用
- ビジネスプロセスやソフト処理手順
- 生活分野の意外な工夫
に整理できます。
つまり、「高レベルなハイテク技術」でなくても、現場の改善や生活・業務に密着した工夫から多くの特許が生まれているのです。
ただし、これらに該当すれば必ず特許が取れる、という単純な話ではありません。
既に世に知られているものとの差がどれくらいあるか が、特許になるかどうかを左右します。
まとめ:大企業・ハイテクじゃなくても特許は狙える
「特許は大企業や高度な研究開発のもの」というイメージは根強いですが、実際にはそうではありません。
中小企業でも、現場の工夫やちょっとした改善が特許となり、事業の強みにつながる事例は数多くあります。
本記事で紹介したように、消防ノズルの構造改良や調理器具の形状工夫といった、身近で具体的な改善からでも特許は生まれています。
さらに「意外と特許になる」要素を整理すると、構造の改良、形状や使い勝手の工夫、用途特化、ビジネスプロセス、生活分野の改善など、幅広い切り口が見えてきました。
もちろん、特許出願には費用や手間がかかりますし、公開による技術流出リスクも伴います。
したがって「とにかく出せばいい」というものではなく、費用対効果や事業戦略を踏まえた検討が不可欠です。
そのうえで、「もしかすると自社の工夫も特許になるかも」と感じたら、まずは専門家に相談することをおすすめします。
特許出願まで行うことを考えれば最初から弁理士に依頼するのが近道ですが、初期の段階であればINPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)の無料相談等を活用するのもよいでしょう。
特許は「特別な人のもの」ではなく、誰の身近な工夫からも生まれ得るものです。
あなたの会社の現場にも、まだ眠っている「特許のタネ」があるかもしれません。
本記事の執筆者
朝倉とやまコンサルティング事務所の代表・朝倉傑が本記事を執筆しました。
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