本ページは2025年6月17日版の通常枠の公募要領と各枠の最新の公募要領に基づき作成しています。要領は改訂される場合があります。申請前に必ず事務局サイト掲載の最新版をご確認ください。
本記事では、各章の冒頭に「その章でわかること」を簡単にまとめています。まずは冒頭まとめをチェックして、自分に必要な内容を見極めたうえで、詳しく知りたい部分を本文でご確認いただくのがおすすめです。
1. IT導入補助金とは
IT導入補助金の目的や仕組み、期待される効果と課題への対応策、さらに主要な用語の意味を理解できます。
制度の概要
IT導入補助金(2025年度版)は、中小企業や小規模事業者が業務効率化や生産性向上のためにITツール(ソフトウェアやクラウドサービス、関連サービスなど)を導入する際、その費用の一部を国が補助する制度です。
本制度は、複数年にわたり直面する制度変更(働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス制度導入など)に対応するとともに、デジタル化の加速に備え、持続的な事業成長を後押しすることを目的としています。
また、この制度の大きな特徴は、登録されたIT導入支援事業者と事業者が「共同事業体」を組んで申請する点です。申請や実績報告は、事務局(TOPPAN株式会社が運営)を通じて行われ、補助金は「交付決定 → 導入・支払い → 実績報告」の流れを経て交付されます。導入後は最大3年間の効果報告も必要です。
期待される効果
補助金を活用することで、次のような効果が期待できます。
- 業務効率化・コスト削減:クラウドや自動化ツールで作業を省力化
- 生産性向上:人材不足への対応や付加価値の高い業務へのシフト
- 制度対応:インボイス制度や賃上げ要請などの制度変更にスムーズに対応
- デジタル基盤整備:DX推進の第一歩となる環境を整備
課題と解決アプローチ
中小企業がITを導入する際には、いくつかの課題があります。
たとえば「導入コストが大きい」という課題には、補助金による初期負担の軽減が用意されています。
また「社内にITの専門知識がない」という場合でも、登録済みのIT導入支援事業者が伴走して申請や導入を支援します。
さらに「導入効果が分かりにくい」という点については、制度上のルールとして最大3年間の効果報告が義務づけられています。これは申請企業にとっては事務的な負担(デメリット)が大きい一方で、自社の生産性や賃上げ状況を数値で振り返る機会(メリット)にもなり、将来の改善や信用力強化につながる場合もあります。
主な用語の説明
補助事業者 … この補助金を申請し、採択されれば補助金を受け取る中小企業・小規模事業者のこと。
IT導入支援事業者 … 制度に登録されており、ITツールの提供や申請手続きのサポート、導入後の支援まで伴走してくれる事業者。
ITツール … 事務局に登録されたソフトウェア、クラウドサービス、オプション機能、役務、ハードウェアなどの総称。
外部専門家(複数社連携枠の場合) … グループでの取組みに助言や支援を行う第三者。謝金や旅費が補助対象となることがあります。
グループ構成員(複数社連携枠の場合) … 同じ補助事業に参加する事業者のこと。代表事業者と参画事業者を含みます。
代表事業者(複数社連携枠の場合) … グループの取りまとめ役として、申請や報告、事業進行管理を担う事業者。
2. 補助対象となる事業者
IT導入補助金の申請対象となる中小企業・小規模事業者の定義や基準、対象となる業種や規模の目安を理解できます。
IT導入補助金を申請できるのは、日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者等です。
業種ごとに資本金または従業員数の上限が定められており、そのいずれかを満たせば対象となります。
また、インボイス枠(電子取引類型など)では一部大企業も補助事業者として申請可能ですが、その場合は取引関係にある中小企業・小規模事業者へ無償でアカウントを供与するなど所定の条件を満たす必要があります。
中小企業・小規模事業者等の定義(主な例)
- 製造業・建設業・運輸業:資本金3億円以下 または 従業員300人以下
- 卸売業:資本金1億円以下 または 従業員100人以下
- サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く):資本金5,000万円以下 または 従業員100人以下
- 小売業:資本金5,000万円以下 または 従業員50人以下
- ゴム製品製造業(タイヤ・チューブ製造業など):資本金3億円以下 または 従業員900人以下
- ソフトウェア業・情報処理サービス業:資本金3億円以下 または 従業員300人以下
- 旅館業:資本金5,000万円以下 または 従業員200人以下
※ 個人事業主は資本金要件ではなく従業員数要件が適用されます。
小規模事業者の目安
- 商業・サービス業(宿泊・娯楽業を除く):従業員5人以下
- 宿泊業・娯楽業:従業員20人以下
- 製造業その他:従業員20人以下
医療法人や学校法人、農協、NPO法人、政治団体、宗教法人など、枠によっては申請できない法人格があります。また、過去に不正受給があった事業者も対象外となります。
これらは第6章、第10章などで説明します。
3. 補助金の枠の種類と特徴
IT導入補助金2025で設定されている各枠の種類や特徴を整理し、補助額・補助率・対象経費を比較しながら、自社に合った枠を選ぶポイントを理解できます。
補助枠一覧(比較表)
枠名 | 補助額 | 補助率 | 主な対象経費 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
通常枠 | 5万円〜150万円未満(条件で450万円まで) | 中小:1/2以内小規模:2/3以内(賃上げ要件で優遇) | ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費 | 幅広い業務改善に対応する基本枠 |
セキュリティ対策推進枠 | 5万円〜150万円 | 中小:1/2以内小規模:2/3以内 | 「お助け隊リスト」掲載サービス利用料(最大2年分) | サイバー攻撃対策専用 |
インボイス枠(対応類型) | 下限なし〜350万円(段階的上限) | 3/4以内 小規模:4/5以内 | ソフトウェア、クラウド(2年)、ハードウェア(PC・レジ等)、導入関連費 | インボイス制度対応を推進 |
インボイス枠(電子取引類型) | 下限なし〜350万円 | 中小・小規模:2/3以内その他:1/2以内 | クラウド利用費(2年、無償供与割合で按分) | 無償アカウント供与機能が必須 |
複数社連携IT導入枠 | 基盤導入+分析経費:最大3,000万円その他経費:最大200万円 | (1)(2):2/3以内(3):200万円または全体の10%以内 | 基盤導入費、分析費、事務費、外部専門家費 等 | 複数社(10者以上)の共同取組に対応 |
各枠の特徴とポイント
通常枠
概要:最も幅広い事業者が利用できる基本枠。業務効率化や売上拡大を狙う小規模・中小企業に適しています。
要件:1つ以上の業務プロセスを効率化(条件を満たせば4プロセス以上で上限拡大)。
ポイント:条件を満たすと補助上限を450万円まで引き上げ可能。賃上げ要件を満たすと補助率も優遇されます。
セキュリティ対策推進枠
概要:サイバー攻撃や情報漏洩への対策を目的とした枠。
要件:「IPA サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスに限定。
ポイント:小規模事業者が手軽にセキュリティ強化できる制度です。
インボイス枠(インボイス対応類型)
概要:インボイス制度対応を強力に推進する枠。
要件:会計・受発注・決済のいずれか1つ以上の機能を備えるITツール。
ポイント:補助率が高め(小規模事業者は最大4/5)。PC・レジ・券売機などのハードウェアも対象になります。
インボイス枠(電子取引類型)
概要:サプライチェーン全体での制度対応を後押しする枠。
要件:インボイス対応の受発注機能+取引先に無償でアカウントを供与する機能。
ポイント:大企業も申請可能。経費は無償供与割合で按分計算されます。
複数社連携IT導入枠
概要:商業集積地や業界単位でのデジタル化を進めるための大規模枠。
要件:10者以上の事業者がグループを組み、代表事業者が申請。
ポイント:基盤導入・消費動向分析に最大3,000万円の補助。外部専門家費も対象です。
枠の選び方のヒント
- 通常枠 → セキュリティやインボイス対策以外のITツールを導入して業務効率化をしたい小規模・中小企業
- セキュリティ枠 → 情報セキュリティに不安がある小規模・中小企業
- インボイス枠(対応類型) → インボイス制度対応が急務の小規模・中小企業
- インボイス枠(電子取引類型) → 発注企業が取引先にシステムを普及させたい場合
- 複数社連携枠 → 商業集積地や業界全体でのデジタル化を進めたい場合
4. 補助対象経費と補助額
IT導入補助金2025で補助対象となる経費の範囲や、枠ごとの違い、補助額の計算方法を整理します。対象外経費や実務上の注意点も理解できます。
補助対象経費
IT導入補助金では、以下の経費が補助対象となります。ただし、枠ごとに対象・条件が異なるため注意が必要です。
- ソフトウェア購入費
登録ITツールのライセンス・パッケージ費用。
→ 通常枠・インボイス対応類型・複数社連携枠で対象。 - クラウド利用費
最大2年間分の利用料。
→ すべての枠で対象。ただし電子取引類型は「無償アカウント供与割合で按分」といった特別ルールあり。 - 導入関連費
設定、カスタマイズ、操作説明、マニュアル作成など。
→ 通常枠・インボイス対応類型・複数社連携枠で対象。 - ハードウェア関連費
PC・タブレット、レジ、券売機等(上限設定あり)。
→ インボイス対応類型のみ対象。 - サービス利用料
IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」掲載サービスの利用料(最大2年分)。
→ セキュリティ枠のみ対象。 - 外部専門家費用
コンサルティング、調査分析、旅費など(条件付き)。
→ 複数社連携枠のみ対象。
補助対象経費と枠の対応一覧
経費区分 | 通常枠 | セキュリティ枠 | インボイス対応類型 | 電子取引類型 | 複数社連携枠 |
---|---|---|---|---|---|
ソフトウェア購入費 | ○ | – | ○ | – | ○ |
クラウド利用費 | ○ | ○ | ○ | ○(按分) | ○ |
導入関連費 | ○ | – | ○ | – | ○ |
ハードウェア関連費 | – | – | ○ | – | – |
サービス利用料 | – | ○ | – | – | – |
外部専門家費用 | – | – | – | – | ○ |
補助対象外経費(主な例)
- 交付決定前に契約・支出した経費
- 本事業の目的に直接関係しない機器・ソフト(例:汎用PCや汎用オフィスソフト)
- 中古品、リース・レンタル費(※条件付き例外あり)
- 保守更新契約、消耗品費、広告宣伝費、研修費など
実務上の注意ポイント
- 補助率は事業者区分や申請枠によって異なる
- インボイス電子取引類型では、無償アカウント供与割合で補助額が変動
- 複数社連携枠は経費区分ごとの上限・補助率に細かい規定あり
- 補助額はすべて消費税抜きで計算する
※ 賃上げ要件など特定条件下で補助率や上限額が変わることがあります。詳細は、第6章で解説します
5. 公募スケジュール
IT導入補助金の最新の公募スケジュールに加え、大まかなな流れと、過去の実施回数や注意点も確認できます。
IT導入補助金は、年度内に複数回の公募・採択が行われます。
申請受付の開始時期、締切日、交付決定日は枠や年度ごとに異なりますが、例年の傾向としては春から秋にかけて複数回の締切が設定されています。
直近の公募スケジュールは以下のとおりです。
通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型、電子取引類型)・セキュリティ対策推進枠(第6次)・複数社連携IT導入枠(第4次)
締切日:2025年10月31日(金)17:00
大まかなスケジュール
- 公募開始:事務局サイトで要領公開とともにスタート
- 申請受付期間:約1〜2か月間、原則電子申請
- 審査・採択発表:締切から1〜2か月後に公表
- 交付申請・事業開始:採択発表から原則2か月以内
- 事業実施期間:交付決定から約6か月間
- 実績報告・補助金請求:事業完了後に報告書提出・検査を経て支払い
過去の実施回数(参考)
- 2023年度:通常枠・特別枠あわせて 年5〜6回程度
- 2024年度:通常枠・特別枠あわせて 年6回程度
- 2025年度:通常枠が年7回、特別枠が年3~7回
※インボイス枠や複数社連携枠など、一部枠は通常枠とは締切スケジュールが異なる場合があります。
6. 申請要件
IT導入補助金を申請する際に必要な条件を整理しています。共通の基本要件に加え、150万円以上を申請する場合の特別な条件、枠ごとの追加要件、補助率や補助上限が変わる優遇条件について確認できます。
基本要件(全枠共通)
申請者は以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 日本国内で事業を営んでいること
法人登記があり(法人番号が国税庁サイトに公表されている)、または個人事業主として国内で事業を行っていること。 - 補助対象事業者の定義に該当すること
(詳細は第2章を参照)。 - IT導入支援事業者と共同で申請すること
申請から導入・効果報告まで伴走支援を受けながら実施します。 - GビズIDプライムを取得していること
申請は電子申請(jGrants)が原則。 - 情報セキュリティに関する宣言
IPA「SECURITY ACTION」で「★一つ星」または「★★二つ星」の宣言をしていること。 - 労働生産性向上計画を策定すること
- 1年後に労働生産性を3%以上向上
- 3年間の年平均成長率で3%以上
※過去採択歴がある場合はより高い目標(4%以上)が必要。
- 事業場内最低賃金が地域別最低賃金以上であること(申請直近月時点)。
- 申請時に携帯電話番号を登録し、事務局からの連絡に応じること。
- 他の補助金と重複しないこと。
- 導入するITツールに比べて役務費用が過大でないこと。
- 事務局や中小機構の調査・立入検査に協力すること。
150万円以上を申請する場合の追加要件(全枠共通)
補助金額が 150万円以上の場合は、すべての枠に共通して以下の条件が追加されます。
賃上げ要件
- 給与支給総額の年平均成長率を1.5%以上とすること
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上とすること
- これらの計画を従業員に表明すること
※小規模事業者や医療・介護・教育など一部の事業者は適用除外
未達時の返還リスク
賃上げ要件を満たせなかった場合、補助金の一部または全額返還を求められることがあります。
枠ごとの追加要件
- セキュリティ対策推進枠
IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスを導入すること。 - インボイス枠(対応類型)
会計・受発注・決済のいずれか1機能以上を有するITツールを導入すること。 - インボイス枠(電子取引類型)
インボイス対応の受発注機能を備え、発注事業者が取引先(中小企業等)に無償アカウントを供与できる機能を有すること。 - 複数社連携IT導入枠
グループ全体で10者以上が参画し、共同でITツールを導入すること。
補助率・補助額が変わる条件(優遇要件)
一部の枠では、追加条件を満たすことで補助率や補助上限が優遇されます。
- 通常枠
- 賃上げ要件を満たすと補助率が優遇
(中小:1/2 → 2/3、小規模:2/3 → 4/5) - 業務プロセスを4つ以上改善する場合、補助上限が150万円 → 450万円に拡大
- 賃上げ要件を満たすと補助率が優遇
- インボイス枠(対応類型)
- 賃上げ要件を満たすと補助率が優遇
(中小:1/2 → 2/3、小規模:2/3 → 4/5) - PC・レジ等のハードウェア経費も対象。ただし賃上げ要件の有無で補助率が変動
- 賃上げ要件を満たすと補助率が優遇
- インボイス枠(電子取引類型)・セキュリティ対策推進枠・複数社連携枠
- 優遇要件なし
7. 事業計画書作成のポイント
申請の要となる「事業計画書」の作り方を解説します。現状の課題整理から数値目標、スケジュール、継続性まで、採択されやすい計画を組み立てる具体的なポイントを確認できます。
IT導入補助金の採択可否は、提出する事業計画書の内容に大きく左右されます。
「課題 → ITツールの機能 → 効果 → 継続性」が論理的につながっているかどうかが重要です。
作成の基本ポイント
- 現状の課題を具体的に記載
業務プロセスの非効率部分や売上減少の要因を、数値や事例で示す。 - 「なぜ今このITツールか」を明確化
導入する機能の説明だけでなく、課題解決との関連性を示す。
例:受発注業務の自動化 → 月間処理時間△△時間削減 - 数値目標を根拠とともに設定
- 公募要領に定められた労働生産性向上目標(3年後・5年後)を算出
- 売上高、営業利益、人件費などの見込みを提示し、算出根拠を明確にする
- スケジュールの現実性を示す
- 交付決定から完了報告までの実行可能な工程表を作成
- 導入時期・研修・効果測定のタイミングを明記
- 継続性の説明
補助期間終了後も継続利用する意思と計画を示す。維持費や保守体制も含めて記載。
採択されるためのチェックポイント
- 課題と解決策の一貫性
「現状の課題 → ITツールの機能 → 期待効果」が論理的につながっているか - 数値目標の具体性と根拠
測定可能なKPI(売上高、処理時間削減など)を提示し、根拠を明確にしているか - 効果の持続性
補助期間終了後もツールを活用し、効果が続く仕組みがあるか - 費用対効果の高さ
投資に見合う成果が期待できるか - 申請書の読みやすさ
誰が読んでも理解できる文章になっているか(専門用語の使いすぎに注意)
8. 申請の流れ
IT導入補助金の申請から補助金受給までの全体の流れを解説します。必要書類や申請方法、採択後の事業実施、報告までのステップを確認できます。
申請から補助金受給までの流れは、大きく次の9ステップに分かれます。
- IT導入支援事業者の選定・相談
- 導入するITツールの決定
- 必要書類の準備
- 事業計画の策定
- 申請提出(電子申請)
- 採択結果公表と交付決定
- 補助事業の実施
- 実績報告・補助金請求
- 効果報告
以下でそれぞれを詳しく解説します。
Step 1. IT導入支援事業者の選定・相談
- 事務局ポータルサイトの「IT導入支援事業者一覧」から、自社課題に合う事業者を探す
- 登録済みITツールやサポート内容を比較
- 申請要件や必要書類を確認し、事業計画の方向性を相談
Step 2. 導入するITツールの決定
- 課題解決につながる登録ITツールを選定
- 複数ツールやオプションを組み合わせ可能(枠の要件を満たす必要あり)
- 導入にかかる費用見積もりを作成
Step 3. 必要書類の準備
申請前に、枠や事業者区分に応じた必要書類を揃えます。
不備があると受理されないため、早めの準備が重要です。
必要書類一覧(例)
- 全事業者共通
- 事業計画書(課題・導入効果・数値目標・スケジュールを記載)
- GビズIDプライムアカウント(電子申請必須)
- 労働者名簿(従業員数確認用)
- 直近期の事業概要書(会社案内等でも可)
- 法人の場合
- 直近2期分の決算書(税務署受付印または電子申告確認印)
- 履歴事項全部証明書(発行後3か月以内)
- 個人事業主の場合
- 直近分の確定申告書(第一表・第二表)
- 開業届(税務署受付印が必要)
- 枠別追加書類(例)
- 複数社連携枠:グループ構成表(参画事業者一覧、役割分担)
- 電子取引類型:無償アカウント供与計画書(提供予定数・提供先)
※詳細は必ず各枠の公募要領を確認してください。
Step 4. 事業計画の策定
- 現状の課題と導入後の改善効果を明確化
- 3年後・5年後の労働生産性向上目標を設定
- 実施スケジュールと資金計画を記載
Step 5. 申請提出(電子申請)
- IT導入支援事業者が申請フォームを作成し、申請者が内容を確認・承認
- jGrants(電子申請システム)で申請
- 事務局による書類確認・審査が行われる
Step 6. 採択結果公表と交付決定
- 採択結果は事務局サイトで公表
- 採択後、交付申請書類を提出し、事務局の承認(交付決定)を受ける
Step 7. 補助事業の実施
- 交付決定後にITツールの契約・導入・支払いを実施
- 操作研修や初期設定などのサポートを受ける
- 事業期間内に支払いと運用開始を完了させる
Step 8. 実績報告・補助金請求
- 導入内容、費用支払証憑、効果報告書を提出
- 事務局による検査・確認後、補助金が交付される
Step 9. 効果報告
- 導入翌年度以降、最大3年間、労働生産性や業務改善効果を報告
- 報告を怠ると補助金の一部返還を求められる場合がある
9. 採択の傾向とポイント
過去の採択率の推移や、枠ごとの傾向を紹介します。採択されやすい申請の共通点や、採択率に影響する要因についても解説します。
採択率の推移
年度 | 全体採択率(通常枠) | 特徴 |
---|---|---|
2021年度 | 約50〜55% | コロナ特別枠の影響で申請件数が増加 |
2022年度 | 約45〜50% | 通常枠の競争がやや激化 |
2023年度 | 約55〜60% | 特定枠(セキュリティ・インボイス)の採択率が高め |
2024年度 | 約50〜55% | インボイス関連枠の採択率が比較的高い傾向 |
枠ごとの傾向:
- 通常枠 → 申請数が多いため競争が激しい
- インボイス枠・セキュリティ枠 → 趣旨が明確で競合が少なく、採択率は比較的高い
- 複数社連携枠 → 要件が厳しい分、申請数は少なく採択率は安定的に高い
採択されやすい申請の全体的特徴
- 枠の趣旨に合致しており、課題と解決策が一貫している
- 数値目標に根拠があり、効果の持続性が示されている
- スケジュールや体制が現実的である
- 書類の不備や形式面のミスがない
👉 詳細な作成ポイントは第7章を参照してください。
採択率に影響する主な要因
- 枠の選び方
- インボイス枠やセキュリティ枠は競合が少なく、比較的有利
- 通常枠は申請件数が多く、採択競争が激しい
→複数の枠に該当するなら、通常枠を避けたほうが採択されやすい。
- 申請時期
- 初回〜中盤の締切は採択率が比較的安定
- 最終回は駆け込み申請が増え、競争が激化する傾向
- 申請内容の完成度
- 同じ条件でも、計画の説得力・数値根拠・表現のわかりやすさで差がつく
10. 採択後の流れと義務
採択後に必要となる実績報告・効果報告といった「主な流れ」と、補助事業者が守るべき義務を整理します。報告遅れや未達は補助金の返還リスクにつながるため、必ず確認しておきましょう。
採択後の主な流れ
Step 1. 実績報告(事業終了時)
- 補助事業は 交付決定日から6か月間程度 が実施期間
- 期間終了後に「実績報告書」を提出
報告内容の例
- 導入製品の稼働状況
- 経費支出の証憑(請求書・領収書、銀行振込の明細や通帳写し)
※現金払いは不可 - (リース利用時)リース契約関連書類(リース会社との契約書、計算書類など)
- 初期の業務効率化・省力化効果
Step 2. 効果報告(最大3年間)
- 補助事業終了後、毎年度の指定期限までに3回提出
- 報告内容
- 労働生産性(付加価値額、生産性向上率)
- 賃金(給与支給総額・事業場内最低賃金)
- 一人当たり勤務時間の平均
注意点
- 報告された数値は、事業計画の目標と照合されます。
- 特に 事業場内最低賃金の引き上げが未達 の場合、補助金の一部返還を求められることがあります。返還額は未達の度合いに応じて段階的に算定されます。
採択後に守るべき義務
- 財産の管理と処分制限
補助金で取得した資産は、一定期間(処分制限期間)が過ぎるまでは譲渡や廃棄が制限されます。 - 報告義務の遵守
実績報告・効果報告は期限厳守。証憑やデータは事業実施中から整理・保存しておく必要があります。 - 収益納付
補助事業によって収益が発生した場合は、収益納付の対象になる場合があります。
義務違反時の措置
以下の場合には、補助金の返還や加算金の徴収、今後の制度利用制限といった厳しい措置が科されます。
- 効果報告を提出しない
- 虚偽の報告を行った
- 補助金を不正に利用した
実務上の注意ポイント
- 実績報告用の証憑類は、事業実施中からフォルダ分けして管理するとスムーズ
- 効果報告に必要な数値(売上高・給与・勤怠データ等)は、決算やシステムから定期的に抽出・保存しておくと安心
- 報告期限を過ぎると返還リスクが高まるため、スケジュール管理を徹底すること
11. 注意点
IT導入補助金の申請から効果報告までに注意すべきポイントを、フェーズごとに整理します。他章で詳しく解説している内容への参照も交え、全体像を確認できます。
申請前の注意点
- 要件の再確認
申請者区分や枠の条件を満たしているか、公募要領で確認(→第6章参照) - スケジュール管理
締切や実績報告期限を守れるかを事前に確認(→第5章参照) - 経費の精査
補助対象経費と対象外経費を区別(→第4章参照) - 役割分担の合意
申請書作成や書類提出の責任範囲を、IT導入支援事業者と明確化 - 対象外事業者(主な例)
以下に該当する事業者は申請できません。- 資本金・従業員数が基準を超える企業
- 医療法人、学校法人、農業協同組合、NPO法人など(一部枠では申請可能な場合あり)
- 政治団体、宗教法人
- 暴力団関係者やそれらと関係を持つ者
- 国・地方公共団体、独立行政法人などの公的機関
- 過去に補助金等の不正受給や重大な契約違反があった事業者
- 👉 詳細は必ず最新の公募要領を確認してください。
事業実施中の注意点
- 交付決定前の契約・支払いは禁止
これを行った経費は補助対象外 - 計画変更は事務局の承認が必要
導入ツールや経費、スケジュール変更は無断でできない - 証憑の保管
契約書・請求書・納品書・振込明細などは5年間保存義務あり - 導入完了の定義
納品・設定・運用開始まで完了していること
実績報告・効果報告の注意点
- 期限厳守
遅延は交付取消や返還の対象(→第10章参照) - 報告内容の整合性
実施内容・導入ツール・経費が計画と一致していること - 効果報告の継続義務
最大3年間の効果報告に対応できる体制を整える
よくある不交付・返還事例
- 交付決定前に契約・支払いを行った
- 補助事業完了前に導入機器を転売・処分した
- 実績報告の証憑不足や不備
- 計画と異なるITツールを導入した
- 効果報告を未提出
12. よくある質問(FAQ)
本章では、申請を検討中の方からよく寄せられる質問をまとめています。
「補助金全般に共通する質問」と「IT導入補助金ならではの質問」に分けて整理しました。
基礎的な質問(制度横断的な内容)
※ 詳しくは総合ガイドもあわせてご覧ください。
Q1. GビズIDがないと申請できませんか?
A. はい。必須です。
申請はjGrantsによる電子申請のため、GビズIDプライムアカウントが必要です。発行には2〜3週間程度かかる場合があります。
Q2. 補助金はいつ支払われますか?
A. 実績報告の審査完了後です。
補助事業終了後に報告書・証憑を提出し、事務局確認を経て交付されます。
Q3. 交付決定前に契約・支払いをしてしまいました。
A. その経費は補助対象外です。
交付決定前の支出は補助の対象になりません。
制度固有の質問
Q4. 既に導入しているソフトも対象になりますか?
A. 原則対象外です。
対象は交付決定後に新規契約・導入するITツールです。ただし、既存ソフトの追加機能や上位プランへのアップグレードは条件付きで対象になる場合があります。
Q5. 複数枠の併用は可能ですか?
A. 1つの申請で複数の枠を組み合わせることはできません。ただし、条件を満たせば別事業として複数枠に応募することは可能です。
例:
- 通常枠(150万円未満)で自社用ツールを申請
- 併せてインボイス枠やセキュリティ枠に別途申請
- 発注企業として電子取引類型に申請し、さらに複数社連携枠で業界全体の取組に参加
※同一経費の二重計上は不可。同一内容の重複申請も不可。募集スケジュールは枠ごとに異なるので注意。
Q6. 導入後すぐに解約するとどうなりますか?
A. 補助金返還の対象になる可能性があります。
枠ごとに最低利用期間や運用継続義務が定められています。解約を検討する場合は、必ずIT導入支援事業者や事務局に相談してください。
Q7. 補助金で購入した機器やソフトを途中で変更できますか?
A. 原則不可ですが、事務局の承認があれば可能です。
ツールの変更や構成の入れ替えを行う場合、事業計画変更手続きが必要です。無断変更は返還対象となります。
13. まとめ
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等が自社の課題解決や生産性向上のためにITツールを導入する際に利用できる代表的な制度です。
本記事では、制度の概要から対象事業者・補助枠・補助経費・申請要件・スケジュール・採択後の義務・注意点までを解説しました。
制度の振り返り
- 申請できるのは、日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者等
- 枠ごとに対象経費や補助率が異なる(通常枠、セキュリティ枠、インボイス枠、複数社連携枠)
- 申請には IT導入支援事業者との共同申請 が必須
- 採択後は 実績報告・効果報告 など継続的な義務がある
申請成功のポイント
- 課題と解決策の一貫性
「現状の課題 → ITツールの機能 → 期待効果」を明確につなげる - 数値目標の根拠付け
公募要領で定められた生産性向上目標を、売上・人件費などの数値で示す - スケジュール管理
締切や導入スケジュールを現実的に組み、報告期限も意識する - 書類の正確さ
不備や誤記は不採択・返還リスクにつながる
ネクストアクション
申請を検討している方は、まず以下を進めましょう。
- GビズIDプライムの取得(2〜3週間かかるため早めに準備)
- IT導入支援事業者への相談(導入可能ツールや見積もりを確認)
- 事業計画のたたき台作成(課題・導入効果・数値目標を整理)
サポートのご案内
当事務所では、本制度の活用を検討する事業者さま向けに、事業計画書作成支援や申請サポート を行っています。
こんな方におすすめです:
- 制度の詳細を知りたい
- 自社が申請対象になるか確認したい
- 事業計画書や必要書類の準備に不安がある
初回相談は無料です。IT導入支援事業者からのご相談も歓迎します。
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本記事の執筆者
朝倉とやまコンサルティング事務所の代表・朝倉傑が本記事を執筆しました。
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免責
本ガイドは公開情報に基づいた概要です。最新の要件・様式・受付状況は、必ず公式サイトおよび最新の公募要領でご確認ください。内容は予告なく変更される場合があります。